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等しさと同値関係についての一考察

等しさとは何かを考察してみたいと思います。1.等しさにはその等しさの基準が必要であること、2.その基準が集合の要素として対象化されるよりも同値関係のように関係によって定義される方が本質的であること、3.基準のある等しさと同値関係が同じ帰結を得ること、を指摘していきます。そして結論として、一般に同値関係は等しさを明確にした概念と捉えて良いことを示したいと思います。

※)概ね指摘したい事柄は書きましたが、未だ草稿の段階として機会があれば修正を行いたいと思います。

1.等しさにはその等しさの基準が必要である

ユークリッドの原論には、推移律「同じものに等しいものは、互いに等しい(\(A=C \land B=C \Rightarrow A=B\))」が一つの公理として挙げられています。けれど、よく考えてみると、同じものとは一体何でしょうか。すべてが同じ二つのものは、すべてが同じならば一つのものであり、二つであることと矛盾します。つまり、同じものか異なるものかという判断の前提には、比較するという行為があって、さらに、比較するという行為には少なくとも二つの異なるものが必要なのではないでしょうか。

ちなみに、この考えにおいては、すべてが等しい対象は一つしかない、という公理を前提としています。

したがって、ユークリッドの推移律を少し修正すると「あるものと共通するものがある異なるものは、互いに同じ共通するものがある(\(x\in A\cap B\land x\in A \cap C \Rightarrow x \in B\cap C\))」と代えた方が良い気もするわけです。

これをきちんと形式化すると、
集合\(X\)の任意の要素である集合\(A\)が、集合\(Y\)の部分集合であるとき、\(Y\)を集合\(X\)内の等しさの基準として考えることができ、
\[F: 2^{Y} \to 2^{2^{X}}\]
つまり、\(F(Y)\)が\(2^{X}\)の部分集合となる一般には単射でない関数\(F\)が存在します。

2.等しさの基準が集合の要素として対象化されるよりも同値関係のように関係によって定義される方が本質的である

対象と関係、関係論理をお読みください。

3.基準のある等しさと同値関係が同じ帰結を得ること

上述より、等しさとは、基準のある等しさであることが分かりました。基準とは、ある対象間に共通する対象でした。では、ここである対象間\(A\)と\(B\)に共通する対象\(C\)を見出したとします。このとき、対象\(A\)と対象\(C\)の関係を関係\(R\)、対象\(B\)と対象\(C\)の関係を関係\(R^{‘}\)とすると、多くの場合、\(R=R^{‘}\)も成立します。たとえば上述では、この関係\(R,R^{‘}\)を集合と要素の関係で形式化(関係という命題の成否と集合の包含の成否が一致すると考える)しましたが、ここでは一般化してそのまま関係\(R,R^{‘}\)で表しています。

ちなみに、多くの場合、\(R=R^{‘}\)が成立すると指摘しましたが、そもそも、ある対象は、他の対象との関係によってのみ規定されると考えられるので、\(R \neq R^{‘}\)であれば、対象\(C\)が共通ということ自体に疑義が生じます。例えば、対称律が成り立たないかと思います。

そして、さらに対象\(D\)が対象\(C\)と関係\(R^{”}\)を持つならば、対象間\(A\)と\(B\)を類\(C\)として関係\(R^{”}\)において一まとめに考えられるわけです。

ここで、\(R(C)\)と\(R^{‘}(C)\)で構成される\(A,B\)間の関係を改めて一まとめに関係\(R^{”’}\)とすると、関係\(R^{”’}\)は集合\(X\)(\(A,B\)のみ、あるいは\(C\)と同様の関係を持つ要素などで構成された集合)で同値関係を満たします。詳しく書くと、例えば\((C \to A \land C \to B) \land (C \to B \land C \to E) \Rightarrow C \to A \land C \to E\)は、(\(A\ R^{”’}\ B \land B\ R^{”’}\ E \Rightarrow A\ R^{”’}\ E\))と関係\(R^{”’}\)によってまとめられます。これはすなわち、推移律「あるものと共通する関係がある異なるものは、互いに同じ共通する関係がある(\(A\sim B \land B\sim E \Rightarrow A\sim E\))」を満たすことになります。

さらに、集合\(X\)上の関係として関係\(R^{”’}\)を考察する場合には、そもそも、対象\(C\)を見い出す必要もなくなります。なぜなら、上述の通り、対象の性質をきちんと関係に吐き出せば、等しい要素を等しいと判定して類にまとめることもでき、類とそれ以外の要素との間で成立する関係もきちんと記述できるからです。

この同値関係をきちんと形式化すると、
集合\(X\)の任意の要素に定義される関係の集合の集合\(R\)について、
\[F: R \to 2^{X \times X}\]
\[F^{‘}: 2^{X \times X} \to 2^{2^{X}}\]
なる一般には単射でない関数\(F\)と単射の関数\(F^{‘}\)が存在します。

その結果、基準のある等しさも同値関係も\(2^{X}\)の部分集合に帰結されることが分かります。

そもそも、等しさや基準のある等しさを考える目的は、異なる対象を基準によって類別した上で、一まとまりの類を基準の持つ性質に基づいて一括して取り扱うことにのみあると言えます。そうすると、同値関係は異なる対象を類別しますし、くわえて、類に属さない要素との関係において一まとまりの類を同値関係を根拠に一括して取り扱うことができれば、基準のある等しさの目的を同値関係は充足します。そして、当然、そのために同値関係を考えるのでした。

まとめると、対象\(A\)や対象\(B\)の同値関係を考察する方が、対象\(A\)や対象\(B\)の共通する対象\(C\)を考察するよりも本質的であり、一方で、同値関係も帰結としては、等しさの基準となる共通する対象\(C\)を見出して考察することと同じことをしています。それは、両者共に「集合\(X\)の類別」に帰結されるからです。上述の基準のある等しさにおける関数\(F\)も同値関係における関数\(F\)も共に、一般に単射ではないですが、制限をして逆写像の定義ができます。

以上は、同じものによって等しいという関係を定義するのか、等しいという関係によって同じものを定義するのか、ということの違いだと思います。後者の方を本質と捉えて公理、そして理論を拡張するために、「等しいという関係」自体を反射律(\(a=a\))、対称律(\(a=b \Rightarrow b=a\))、推移律(\(a=b \land b=c \Rightarrow a=c\))という法則に分解し、この三つの法則を満たす何らかの関係を同値関係と定義したのでした。

以上より、等しさは、基準によって決まるものであり、さらには、関係を基準にして決まるものであるということが言えるかと思います。したがって、一般に同値関係は、等しさを明確にした概念と捉えて良いと思います。

追記

同値関係の名前の由来は、同値な命題が(\(a \Leftrightarrow a\))、対称律(\((a \Leftrightarrow b) \Rightarrow (b \Leftrightarrow a)\))、推移律(\((a \Leftrightarrow b \land b \Leftrightarrow c) \Rightarrow (a \Leftrightarrow c)\))を満たすことに由来すると思うのですが、くわえて、同値関係\(\sim\)自体(例えば\(a \sim a\)や\(a \sim b\)など)も真偽の対象となり命題であると考えられるので、そのため実際に、同値類は真な命題の集合でもあり、つまり、等しい要素を集めた集合が真な命題の集合でもあるという事実は、等しさと正しさに不思議な対称が生まれていて興味深く感じます。

さらに、上記の「同値関係\(\sim\)自体も真偽の対象となり命題である」という視点からすると、すべての同値関係は、その要素を適切な条件に置き換えることで同値な命題に変換できるのではないかという気もしてきます。

公開日時:2019年5月30日
最終修正日:2019年5月30日